民間企業
志を同じくする仲間と大学のサポートのおかげで、
挫折を乗り越えた。
児童虐待を減らす目標に向かって、これからも壁を越え続けたい。
兵庫県警察本部の採用試験合格、おめでとうございます。
警察官を志したきっかけについてお聞かせください。
高校1年生の時、友人が虐待を受けていることを知りました。私は何もしてあげられませんでした。やがてその友人は退学し、私の中には後悔だけが残りました。「こんな気持ちは二度と味わいたくない。まっすぐ手を差し伸べられる人になりたい」。そう強く想うようになり、虐待から人々を守るために警察官を志すようになりました。児童虐待の防止と警察官は縁遠いように思うかもしれませんが、実は虐待の相談・通報は児童相談所よりも警察の方が多いというデータがあります。すぐに現場へ駆けつけて対処できる警察官の方が、より迅速に、より幅広い人に手を差し伸べられるからだと思いますが、これは私の想いと同じです。
大学ではどのような学修に取り組まれたのですか?
警察官に必要な法律知識は警察学校でもしっかり学べるため、大学でしか学べないことをしようと思い、簿記やファインナンシャル・プランニングの授業を履修しました。それまで特に興味を持っていたわけではありませんでしたが、金融に関する学修は予想以上におもしろかったですね。興味がどんどん広がり、「税法」や「比較税制論」、「社会保険法」なども履修しました。社会制度として税や保険がどのように運用され、私たちの生活とどのように関係しているのかを体系的に理解することができたので、今後社会に出てからも役立つ知識を得られたと感じています。
警察官の採用試験に直結した授業は、「Sコース(特修講座)」の筆記試験対策です。3年生になってからは新型コロナウイルス感染症の影響で講座がオンライン配信になり、自分から能動的に配信講座を視聴しなければ学修が進まない状況になりました。社会全体も大きく変化したことで、戸惑いや焦り、不安など、さまざまな気持ちが入り混じり、どうしても勉強に集中できない時期が続きました。模試でも満足な結果を得ることができず、周りとの差がどんどん開いていくのを肌で感じました。「このままではダメだ。心を入れ替えて勉強に打ち込もう」と決意した頃には、季節は秋になっていました。試験までに残された時間は、そう多くはありません。科目ごとに最も効率的で効果的な勉強法を見つける必要がありました。そこで、頭がすっきりしている早朝に配信動画をひとつ視聴したり、ランニングしながら政治や歴史の授業を聞き流したり、自分なりの工夫を凝らしました。その成果は少しずつ点数にも表れていきましたが、なかなか合格ラインには届きません。怠けているわけではないのに、点数が大きく伸びない。辛く苦しい時間が続き、モチベーションが下がってしまいそうになる時もありました。そのような私を支えてくれたのは、警察官という同じ目標に向かって努力する仲間の存在です。朝から夜まで大学の図書館で一緒に勉強したり、挫けそうになる私を鼓舞してくれたり。仲間の存在がなければ、途中で勉強をやめてしまっていたかもしれません。
警察系のゼミではなく、法曹系のゼミに所属されていたそうですね。
法曹系のゼミを選んだ理由は2つあります。1つ目は、弁護士である岩崎先生の「刑事政策」という授業を履修して、司法の面白さに気づいたことです。2つ目は、検察側ではなく弁護士側の視点も学びたいと考えたからです。経法大には元警察官の先生もいらっしゃいますが、岩崎先生のゼミに所属することで、警察官の立場とはまた違った思考法を身につけられたと感じています。裁判を例に挙げると、警察は検察に証拠を提出するだけですが、弁護士の場合は「どの順番で、どの証拠を提示するべきか」や「どのタイミングで状況を有利に変えていくか」など、独自の戦略があります。ゼミでも裁判事例を題材にしてディベートを頻繁に行っていましたが、このような戦略的思考がなければ反論もできません。ディベートの基礎となる法律知識はもちろん、過去の判例なども学修した上で、どのような角度からどのような意見を述べることが効果的かを常に考えていたので、思考力を鍛えることができましたね。
大学生活で印象に残っていることはありますか?
2年生の時、ゼミで女子刑務所を訪問したことが印象に残っています。受刑者と面会することはありませんでしたが、「自分と同年代の子たちが犯罪を犯し、ここで更生に向けて生活している」と思うと、壁で隔てられているだけの刑務所がまったく別の世界に感じられました。しかし、花壇の手入れをしている受刑者たちの会話に笑い声が混ざっているのを聞いた時、刑務所内にもほがらかな日常があることを知り、刑務所に対する印象が大きく変わったのを覚えています。
本番の試験に向けて、どのような準備をされましたか?
面接対策のために就活実践キャンプに参加しました。ここでしっかり面接のノウハウやスキルを身につけようと考えていました。しかし、終わってみれば自分のコミュニケーション能力の低さを痛感するとともに、周りの学生たちとのレベルの差に愕然としました。もっとできると思っていたので、かなりショックでしたね。「これは何か対策をしなければいけない」と思って警察官の兄に相談したところ、「民間企業も受けて採用試験の経験値を増やした方がいい」とアドバイスしてくれたので、民間企業の選考にも取り組むことに。しかし、結果は散々なものでした。自分の不甲斐なさに打ちのめされ、大きな挫折感を味わいながらも、エントリーシートの内容を見直したり、友人に面接官役を頼んで練習したり、できることに精一杯取り組みました。このような努力が功を奏したのか、最後の最後にALSOKから内定をいただくことができた時は本当にうれしかったです。自分でも成長を感じ、大きな自信を得ることができました。
警察の採用試験に向けて、キャリアセンターで論文を添削していただきました。最初は添削で真っ赤になった論文が返ってきましたが、回を重ねるごとに添削の赤字が減り、赤字が減るたびに実力がついていることを実感しました。公務就職支援室では面接の練習をしていただきました。試験直前の2週間は毎日練習に通いました。さらに警察官採用試験直前対策セミナーにも参加し、集団面接やグループディスカッションの最終調整をしました。ゼミの岩崎先生にもエントリーシートや面接の最終チェックをしていただくなど、大学から多くのサポートを受けられたので、自信を持って試験本番に臨めました。
本番の採用試験では、培ってきた力を発揮できましたか?
はい。筆記試験については、周りの受験者は難しかったと言っていましたが、私は手応えがあったので、しっかり実力を発揮できたと思っています。2次選考の面接は少し圧迫気味だったので緊張しましたが、「面接で怯えていたら警察官にはなれない」と自分を奮い立たせ、淀みなく受け答えすることができました。ただ、筆記試験の時のような手応えはなく、十分に実力を発揮できなかったと落胆して帰ったのを覚えています。
合格発表まで間隔が空いていたので、「もしかするとダメかもしれない」と日に日に不安が募り、次の試験に備えて勉強を続けました。そのため、合格発表の日は不安ではち切れそうな胸をおさえながら、発表時刻の10分前からスマートフォンを握りしめて待機していました。画面に自分の番号を発見した時は、間違いじゃないかと何度も見直しましたね。何度も挫折を味わってきたので、この合格は本当にうれしかったです。
今後の抱負についてお聞かせください。
挫折を味わいながらも何とかここまでたどり着くことができたのは、間違いなく仲間と大学のサポートがあったからです。これから先、警察学校でも警察官になってからも、また挫折を味わうことがあるかもしれません。しかし、今の自分なら、仲間とともに壁を乗り越え、児童虐待を減らすという目標に向かって突き進んでいけると信じています。さらに、児童虐待だけでなく、高齢者を狙った犯罪も増え続けているので、弱い立場の人を守れるよう、さまざまな取り組みに従事していきたいですね。
※掲載内容は取材当時のものです。