進学
法律の奥深さや人の心の大切さを学んだ4年間。
法律家としての自分の未来に、つなげたい。
法科大学院への合格、おめでとうございます。
法律を学ぼうと考えるようになったきっかけについて、お聞かせください。
ありがとうございます。
最初に法律に興味を持ったのは、小学2年生くらいの頃です。祖父の家にあった六法の本をたまたま手に取り、たまたま開いたページに刑法261条が記されていました。器物損壊罪についての条文です。「他人の物を壊してはいけない」という、小学生にとっても身近で当たり前に感じられることが、きちんと法律として定められていて、その罰についても書いてある。「面白い」と感じた僕は、その後、祖父からその六法の本を譲り受け、雑誌のような感覚で、いつも読んでいました。そうするうちに、たとえば「名誉毀損罪と侮辱罪はどう違うのだろう?」といった疑問を持つようになり、自分なりに調べたり考えたりするようになっていきました。
では大学の法学部に入学する前から、法律について学んでこられたのですね。
はい。中学生や高校生の頃も、ずっと独学で法律について学び続けました。そして「厳しい校則は人権を侵害するものではないだろうか?」「学歴で人間の価値が決まるのだろうか?」といった疑問を日々感じるようになり、そうしたなかで人権感覚を養ってきたように思います。
そしていつしか漠然と「刑事法にかかわる仕事に就きたい」と考えるようになりましたが、高校卒業後、大学には進学せず、東京でアルバイトをしながら一人暮らしをしました。「大学に行かなくても、自分には法律の知識があるから何とでもなる」と考えていたのです。でも1年間、実際に社会に出てみて、実感しました。いくら独学で法律を学んだといっても、それだけでは相手にしてもらえない。やはり知識を持っている証明として、大学の法学部で学ぶということは大事なのだな、と。そう思い直して、僕は経法大に入学したのです。
実際に大学の法学部の授業を受けて、どのように感じられましたか?
学問としての法律の奥深さに、気づくことができたと思います。大学に入る前は司法試験を意識し、具体的な事象に法律をあてはめるといった、「社会で使える法律」の知識を蓄えることに力を注いでいました。しかし大学の授業で、死刑制度や、クローン技術の人間への適用、代理母など、さまざまな問題の是非について、法律を用いて論理的に、パズルを解くように考えてゆく、といった学びと出会い、僕は法律の奥深さに魅了されていきました。なので大学では、学問としての法律の研究に、ひたすら打ち込みました。
研究に取り組む環境として、やはり大学はいい場所だと思います。学内に図書館があり、欲しい本がない場合は、他の協定大学にあれば取り寄せてもらうこともできましたから。ゼミの先生に論文の書き方について教わることで、自分の研究成果を論文というかたちにする力も身につけることができました。
視野が広がり、法律を学ぶ楽しさを存分に味わえ、大学に入って本当に良かったと感じています。
法科大学院の受験にあたっては、どのように準備を進めてこられたのですか?
実はギリギリまで、受験を迷っていました。ですから受験対策は、ほとんどしていませんでした。
大学に入学した時は、司法試験合格をめざそうと考えていましたが、大学で学ぶうちに、研究職にも関心を持つようになったのです。ですから法科大学院か修士課程か、どちらに進むべきか、その決断に時間がかかりました。先生に相談して、「法科大学院を経て法律研究者になった人もいる」と教わり、それならば、という気持ちで法科大学院受験を決意しました。その結果、第一志望の早稲田大学大学院法務研究科と、第二志望だった立命館大学大学院法務研究科に合格することができました。
早稲田大学大学院法務研究科を志望された理由をお聞かせください。
一つは、司法試験の合格実績の高さです。そして早稲田大学には、尊敬する山口厚先生がいらっしゃるということが、僕にとって大きな魅力と感じられました。刑法を専門とする法学者では、日本の第一人者とも言われている方です。
早稲田大学大学院法務研究科の入試では、僕にとってとても興味深い問題が出題されました。米国の政治哲学者であるマイケル・サンデルの著書を題材に「被害者感情を量刑に取り込むべきか否か、マイケル・サンデルの言葉を引用して論じなさい」というものです。僕が大学で研究してきた領域のテーマでしたし、「刑法が題材なのだから、ひょっとして山口厚先生が読んでくださるのでは?」と思い、僕は試験であることを忘れ、学術論文を書くくらいの気持ちで、自分の考えを書き連ねました。それは「合格をめざすための解答」ではなかったかもしれません。ですから手応えとしては「合格か不合格かは半々かな」と感じていたのですが、結果は合格。すごくうれしかったですね。あの解答を、認めてもらえたのですから…。
大学生活で、勉強以外のことで思い出に残っていることはありますか?
友人たちと過ごした時間が、とても楽しかったですね。趣味のカメラやロードバイクを通じて交友を深め、また、テニスサークルでは部長を務めました。時には意見の食い違いなどで衝突することもありましたが、そうしたなかで成長することができたと思っています。理屈の整合性ばかりでなく、相手の気持ちについて考えることの大切さを、大学でのたくさんの人間関係のなかで学べた。それは、法律に対する考え方の視野の広がりにもつながったと感じています。
今後の抱負についてお聞かせください。
正直、将来についてはまだ迷っています。司法試験をめざすべきなのか、研究職としての道を究めていくのか。時間が許すかぎり、しっかりと考えて答えを出すつもりです。
ただ、将来、自分が法律家になるなら、「人の心など、大切なものを持った法律家になりたい」という想いを強く持っています。理想は、大岡越前の三方一両損。杓子定規でなく、ああいうことを違法にならないように実現できる、そんな法律家になりたい。そうなれないのなら、自分は法律家をめざすべきではないと考えています。
※掲載内容は取材当時のものです。